異業種からの転職③
昼休み、財前と黒磁の二人は休憩室にいた。
「キシリトールの飴あるけど食べる?ミルク紅茶味とコーンスープ味とパクチー味w」
ふくよかな中年女性が話しかけてきた。
「すみません。せっかくですけど甘いものは苦手なんで僕は遠慮しときます」
「じゃあミルク紅茶味いただきまーす。それ以外は食べる気しねぇすけど。パンチ効いてますねー」
「私もどうかと思ったけどw新商品は試したくなるからつい買っちゃうんだよね」
「洗井さんは、ここに勤められて長いんですよね?」
「そぅね~子供が小学校上がってからだから、もう15年以上かな?超お局よねぇ。ずっと清掃部門でパート勤務だけどね」
「清掃部門の守口さんが、黒磁にたびたび辛く当たるみたいなんですけど、こいつは彼女になんか怒らせるようなことしたんでしょうかね?
守口さん、何か言ってませんでしたか?」
「オレなんもしてませんよ…」
「磨美ちゃんが?あの子は悪い子じゃないけど、トゲのある話し方をすることが多いから損な性格なだけよ。基本まじめよぉ」
「最近見ないすけど、病欠か何かですか?」
「うーん…言っていいか分からないけど、他の仕事もしてみたいって言ってたから就活してるのかもしれない。
彼氏も出来たみたいだし…結婚すんのかも?いやー本人いないのに勝手なこと言っちゃダメよねーって言っちゃってるけどwww」
三人で話していると休憩室のドアが勢いよく開いた。
「洗井さん、急にシフト変更させて貰ってすみませんでした。これから入ります」
「いやっ、磨美ちゃん居たの?!」
「今来ましたけど、何か?」
「いやいや、なんでも…じゃあ私は上がろうかなぁ…皆、お先ですぅ~」
パートの洗井は足早に去っていった。
「逃げたな。」
「…お疲れっすー」
「タイムカード押したいので、そこどいてくれませんか?」
入口横のタイムレコーダー前を塞ぐ二人に鬱陶しそうにいう守口。
「あ、ごめん」
「…サーセン。」
「休憩もう終わりですよね、お二人とも、早く戻って下さいよ?」
「守口さん、就活してるの?」
「ちょ、財前さん、急にそんな直球で聞きます?」
「…就活っていうか…。私、このまま使い捨ての使われ方で朽ちていくのは嫌なので、
路線変更しようかなとは思ってますよ。」
「というと?」
「アートの世界に行きたいなって」
「アートの世界?」
「私、一生磨き仕事だけで終わるのは嫌だなって…このままだと磨耗していくばっかりだし、
死ぬまでに何かこの世に残してから死にたいんです」
「守口さんはアートに関心があったんだね」
「悪いですか?」
「いや悪くはないよ。応援するけど。」
「ちなみに何系のアートなんすか?」
「『スパッタリング』で描く絵画とかよ。」
「スパ…… ぇ?
スパ…ゲッティ??」
「…言うと思ったわ。もういいでしょ、タイムカード押したからもう行かないと。黒磁くんも早く戻りなよ」
「は、はい。なんかスイマセン」
「ついでだから言っとくけど、結婚して寿退社する予定はありませんから」
「聞こえてたんかい」
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守口さんも社歴は長いほうですが財前さんより年下なので彼には敬語で話してます。
守口さんの前に「洗井さん」というパートのおばちゃんが出てきましたが、
洗井さんについてはまたの機会にします(笑)
守口磨美さんの正体、分かった方は早押しでお答えください。(回答ボタンはありませんけど)
答えは…
歯ブラシでした。
同じ名前の方、いらっしゃったらすみません…
ただ名前考えるの楽しいけど結構難しい。
歯磨きに使って、古くなったら大体掃除に使われることが多い家庭内リユースの代表選手ですが、
歯磨きや掃除以外にも絵を描いたり模様を描く『スパッタリング』という絵画の技法に用いることが出来ます。
↑こういう飛沫を描く技法を『スパッタリング』といいます。
例えばこんなデザインの絵画が描けたり
応用するとこんな絵画も。素敵ですね(*^^*)
歯ブラシを使った具体的な飛沫の描き方は、ブラシの先端に水で溶いた絵の具を付けて指で弾いて飛ばすやり方も出来ますが、手のひらサイズの『金網』を使うのが一般的です。
↑こういう網に、絵の具を付けた歯ブラシを擦り付けて画用紙にペイントします。
台所用品のザルや茶漉しでも代用可です。
一回歯磨きに使った歯ブラシをペイント用には衛生的に使いにくいわ、という方も多いと思うので、そこは未使用品をお使いくださいませ(笑)
学生時代に美術の時間にやったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
歯ブラシの使い方の幅が広がる回でした。
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